【内容】
本展は、部屋の中にある美しさを見つめ直すことを目的にした科学装置インスタレーションです。
私たちは興味や認識に基づいて世界を知覚しています。目の前にあるものがもし興味の外にある場合、それは私たちの知覚から外れ、まるで存在しないかのようにふるまいます。例えば、私たちは生活の中でホコリを気にもしないでしょう。ですが、ホコリのチラチラと舞う姿が美しいと思えたとしたら、どんな日常になるでしょうか。
退屈に見える部屋にはこうした見方を変えるだけで美しく見えるものが数多く存在しています。本展ではホコリとモヤを通じて日常の美しさに迫っていきます。 視点を少し変えるだけで部屋が少しだけ美しいものになるのではないかと作者は投げ掛けます。
<地下1階>
ホコリに光が当たって輝いて見える現象(チンダル現象)と宇宙の星の瞬きを溶け合わせた空間。同一空間内に、ホコリと星の境目が分からなくなるようなインタラクティブ装置を設置し、ホコリと星の美しさが共存する空間を作ります。
<1階>
密度差によって生じる光の屈折によってモヤが見える現象(シュリーレン現象)を可視化。部屋の中をイメージしたコラージュ映像を空間内に投影します。手にアクリル消毒を噴霧することで、鑑賞者自身の手からモヤを発生させ可視化します。これにより日常(見える)と日常(見えない)が共存する空間を作ります。
<2階>
日々撮りためたヒビの写真を使ったインスタレーションを展示。
ヒビは本来入ることを想定されておらず、平滑な一面に偶発的に生まれます。それは水面の秩序を乱す1滴の雨のようであり、人工物を飲み込む蔦のようであり、意図を持たない曖昧で中立な存在です。
ゆえにヒビを見た時に湧き上がるテーマは属人的で、見たその瞬間の感情を鮮明に残します。例えば私の中には、有機物と無機物の境目、偶然性と必然性、人工と自然、刹那と永遠のようなキーワードが湧き上がりますが、同じヒビでも誰かにとっては全く異なる意味を持ちます。
本展示では、ヒビの写真が印刷されたパネルを鑑賞者が自由に配置できるようにします。普段見えているけれど見ていないヒビ達から相関性や相対性を見つけ、感じたことを配置を変えることで表現できる場となったら嬉しく思います。
【作家よりコメント】 (文責・坂根大悟)
2020年からの3年間、部屋という空間を常に意識していた。
部屋で使うモニターは巨大になり、新しい本棚が導入され、豆からコーヒーを入れるようになった。Amazonの購入履歴を見てみると2020年の5月にホコリとり用のはたきを買い、2020年10月に小型の空気清浄機を買っている。
それだけ部屋やホコリを常に意識していたのだろう。私自身、棚や机に溜まったホコリを見るたびに、忌々しいホコリだと思うが、太陽光やプロジェクター光に照らされているホコリは不思議と美しく見えた。
ゴミかゴミではないかは人間が脳内で枠組みを作っているだけで、常に変化しているのだろう。メディアアーティストの藤幡正樹さんが超分別ゴミ箱2023プロジェクトにおいてこのようなテキストを残している。
「自然という概念は、そもそもWild Nature(原始自然)からTamed Nature(人間によって飼いならされた自然)へ、そして都市のような完全なArtficial Nature(人工自然)へと広がって行ったという。現在問題になっているのは、この人工自然の中の生態系だ。そもそもWild Natureの中にはゴミという概念は無く、すべては無駄なく循環していた。そこにゴミとそうでないものの境界を作ったのは人間の側である。つまり、ゴミは人工自然の中にしか存在しないのであり、これは人間側の問題だ」
本来、元の自然には「ゴミ」という概念は存在しない。排泄物も含めて循環している。
つまりゴミ、この展示でいうホコリという概念は人間生活と密接に結びついているのだ。
今回、ゴミと認識されているものをメディウムとして扱い、それを展示する。これは人間生活を捉え直し、その可能性を追求する行為とも言えるのかもしれない。ゴミに関連して、日常の中の目に見えていないものを可視化する装置も展示する。目的は同じ「鑑賞者の日常への感覚や認識を少しでも拡張すること」だ。美術館に行かなくとも小さな美は、部屋という日常にも数多く転がっている。
不変に見える部屋にも、あらゆる可能性の粒が溢れているはずだ。
この展示がその可能性を広げる入り口になれば嬉しい。
【作家よりコメント】 (UWOUWO・市川しょうこ)
日常生活は絶えず変化しています。生きていれば部屋にはホコリが溜まり、細胞は代謝され身体は老化していきます。普段「生」に紐づく変化を知覚することは稀ですが、見つめ直し知覚した瞬間、生きることとは汚れ、老いることとも言えるのではないでしょうか。
しかし、この生きるに纏わる変化を宇宙に働く物理法則に則って変換すると、地球や星が有する想像を超える美しい景色と通底していることに気づきます。例えば、代謝により生じる体温でも空気は刻々と揺らいでおり、その揺らぎは地球上に生じる巨大な蜃気楼と同じ原理です。
汚れ老いることとも言える生の変化が、美しい宇宙空間と繋がっていることを認識すると、私には空間という羊水に漂うような心地よい感覚に包まれます。どのように生きても私たち個人は世界へ干渉し世界から干渉され、断絶された個の空間である部屋自体も宇宙全体の法則に則っているのです。
今回展示するのは、日常生活の些事を物理や化学の文脈からミクロに分解し、歴史や土地というマクロな文脈で世界を捉えている映像作家:坂根さんと再構築したインスタレーション作品です。
個人と世界、部屋と宇宙、ミクロとマクロ、体験と鑑賞、様々な相対的な点同士が入り交じる展示空間から、世界認識が拡張するような感覚が生まれたら嬉しく思います。
【作家略歴】
■坂根 大悟
1995年 大宮市出身
2013年 川越東高校 卒業
2017年 学習院大学 文学部史学科 卒業
〔主な展示履歴〕
個展
2021年 「遊園的明滅展」高架画廊,神田
グループ展
2023年 「さいたま国際芸術祭公募プログラム」盆栽四季の家 大宮
2022年 「六本木アートナイト・オープンコールプロジェクト」六本木ヒルズアリーナ 六本木
2021年「再展」DHU八王子キャンパス 京王多摩センター
2021年「流展」シェアプレイス調布多摩川 京王多摩川
〔主な上映〕
2021年「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 短編入選作品上映」
2021年「カルト国際映画祭 入選作品上映」
〔主な受賞歴〕
2023 文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業 選出
2023 さいたま国際芸術祭公募作品 選出
2022 六本木アートナイト・オープンコールプロジェクト 選出
2021 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭入選(監督・編集・脚本・撮影)
2021 カルト国際映画祭入選(監督・編集・脚本・撮影)
1995年大宮市出身。映像作家。学習院大学文学部史学科卒業。
在学中は映画史を研究。その土地の持つ歴史や都市を題材に、相反するものが共存しながら、複数の可能性が同時存在する「陰陽太極図的メディア空間」を探求しつつ、立体、映像、中間媒介物を組み合わせ、作品を制作。
■市川しょうこ
〔主な展示履歴〕
2023年
令和5年度メディア芸術クリエイター育成支援事業 《 横浜微塵美展 》
2022年
個展「かぞく展示」 SCOPP CAFE 内ギャラリー
1992年愛知県出身。神戸大学大学院応用化学専攻修了。
化学メーカーの化粧品・医療品の研究開発を経て、現在はヘルスケア系スタートアップ企業の取締役として分子認識化学を研究している。
大学時代に受けた"化学平衡"の授業から、変わっていないようで常に変わっている世界に面白さを感じ、変化や万物の相対性に興味を持つ。未可視の可視化をテーマに、自然現象を物理特性や分子構造として要素分解・再構築することで、対象物が元来内包している潜在的な性質を引き出したインスタレーション作品・立体造形を制作している。
本展は、部屋の中にある美しさを見つめ直すことを目的にした科学装置インスタレーションです。
私たちは興味や認識に基づいて世界を知覚しています。目の前にあるものがもし興味の外にある場合、それは私たちの知覚から外れ、まるで存在しないかのようにふるまいます。例えば、私たちは生活の中でホコリを気にもしないでしょう。ですが、ホコリのチラチラと舞う姿が美しいと思えたとしたら、どんな日常になるでしょうか。
退屈に見える部屋にはこうした見方を変えるだけで美しく見えるものが数多く存在しています。本展ではホコリとモヤを通じて日常の美しさに迫っていきます。 視点を少し変えるだけで部屋が少しだけ美しいものになるのではないかと作者は投げ掛けます。
<地下1階>
ホコリに光が当たって輝いて見える現象(チンダル現象)と宇宙の星の瞬きを溶け合わせた空間。同一空間内に、ホコリと星の境目が分からなくなるようなインタラクティブ装置を設置し、ホコリと星の美しさが共存する空間を作ります。
<1階>
密度差によって生じる光の屈折によってモヤが見える現象(シュリーレン現象)を可視化。部屋の中をイメージしたコラージュ映像を空間内に投影します。手にアクリル消毒を噴霧することで、鑑賞者自身の手からモヤを発生させ可視化します。これにより日常(見える)と日常(見えない)が共存する空間を作ります。
<2階>
日々撮りためたヒビの写真を使ったインスタレーションを展示。
ヒビは本来入ることを想定されておらず、平滑な一面に偶発的に生まれます。それは水面の秩序を乱す1滴の雨のようであり、人工物を飲み込む蔦のようであり、意図を持たない曖昧で中立な存在です。
ゆえにヒビを見た時に湧き上がるテーマは属人的で、見たその瞬間の感情を鮮明に残します。例えば私の中には、有機物と無機物の境目、偶然性と必然性、人工と自然、刹那と永遠のようなキーワードが湧き上がりますが、同じヒビでも誰かにとっては全く異なる意味を持ちます。
本展示では、ヒビの写真が印刷されたパネルを鑑賞者が自由に配置できるようにします。普段見えているけれど見ていないヒビ達から相関性や相対性を見つけ、感じたことを配置を変えることで表現できる場となったら嬉しく思います。
【作家よりコメント】 (文責・坂根大悟)
2020年からの3年間、部屋という空間を常に意識していた。
部屋で使うモニターは巨大になり、新しい本棚が導入され、豆からコーヒーを入れるようになった。Amazonの購入履歴を見てみると2020年の5月にホコリとり用のはたきを買い、2020年10月に小型の空気清浄機を買っている。
それだけ部屋やホコリを常に意識していたのだろう。私自身、棚や机に溜まったホコリを見るたびに、忌々しいホコリだと思うが、太陽光やプロジェクター光に照らされているホコリは不思議と美しく見えた。
ゴミかゴミではないかは人間が脳内で枠組みを作っているだけで、常に変化しているのだろう。メディアアーティストの藤幡正樹さんが超分別ゴミ箱2023プロジェクトにおいてこのようなテキストを残している。
「自然という概念は、そもそもWild Nature(原始自然)からTamed Nature(人間によって飼いならされた自然)へ、そして都市のような完全なArtficial Nature(人工自然)へと広がって行ったという。現在問題になっているのは、この人工自然の中の生態系だ。そもそもWild Natureの中にはゴミという概念は無く、すべては無駄なく循環していた。そこにゴミとそうでないものの境界を作ったのは人間の側である。つまり、ゴミは人工自然の中にしか存在しないのであり、これは人間側の問題だ」
本来、元の自然には「ゴミ」という概念は存在しない。排泄物も含めて循環している。
つまりゴミ、この展示でいうホコリという概念は人間生活と密接に結びついているのだ。
今回、ゴミと認識されているものをメディウムとして扱い、それを展示する。これは人間生活を捉え直し、その可能性を追求する行為とも言えるのかもしれない。ゴミに関連して、日常の中の目に見えていないものを可視化する装置も展示する。目的は同じ「鑑賞者の日常への感覚や認識を少しでも拡張すること」だ。美術館に行かなくとも小さな美は、部屋という日常にも数多く転がっている。
不変に見える部屋にも、あらゆる可能性の粒が溢れているはずだ。
この展示がその可能性を広げる入り口になれば嬉しい。
【作家よりコメント】 (UWOUWO・市川しょうこ)
日常生活は絶えず変化しています。生きていれば部屋にはホコリが溜まり、細胞は代謝され身体は老化していきます。普段「生」に紐づく変化を知覚することは稀ですが、見つめ直し知覚した瞬間、生きることとは汚れ、老いることとも言えるのではないでしょうか。
しかし、この生きるに纏わる変化を宇宙に働く物理法則に則って変換すると、地球や星が有する想像を超える美しい景色と通底していることに気づきます。例えば、代謝により生じる体温でも空気は刻々と揺らいでおり、その揺らぎは地球上に生じる巨大な蜃気楼と同じ原理です。
汚れ老いることとも言える生の変化が、美しい宇宙空間と繋がっていることを認識すると、私には空間という羊水に漂うような心地よい感覚に包まれます。どのように生きても私たち個人は世界へ干渉し世界から干渉され、断絶された個の空間である部屋自体も宇宙全体の法則に則っているのです。
今回展示するのは、日常生活の些事を物理や化学の文脈からミクロに分解し、歴史や土地というマクロな文脈で世界を捉えている映像作家:坂根さんと再構築したインスタレーション作品です。
個人と世界、部屋と宇宙、ミクロとマクロ、体験と鑑賞、様々な相対的な点同士が入り交じる展示空間から、世界認識が拡張するような感覚が生まれたら嬉しく思います。
【作家略歴】
■坂根 大悟
1995年 大宮市出身
2013年 川越東高校 卒業
2017年 学習院大学 文学部史学科 卒業
〔主な展示履歴〕
個展
2021年 「遊園的明滅展」高架画廊,神田
グループ展
2023年 「さいたま国際芸術祭公募プログラム」盆栽四季の家 大宮
2022年 「六本木アートナイト・オープンコールプロジェクト」六本木ヒルズアリーナ 六本木
2021年「再展」DHU八王子キャンパス 京王多摩センター
2021年「流展」シェアプレイス調布多摩川 京王多摩川
〔主な上映〕
2021年「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 短編入選作品上映」
2021年「カルト国際映画祭 入選作品上映」
〔主な受賞歴〕
2023 文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業 選出
2023 さいたま国際芸術祭公募作品 選出
2022 六本木アートナイト・オープンコールプロジェクト 選出
2021 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭入選(監督・編集・脚本・撮影)
2021 カルト国際映画祭入選(監督・編集・脚本・撮影)
1995年大宮市出身。映像作家。学習院大学文学部史学科卒業。
在学中は映画史を研究。その土地の持つ歴史や都市を題材に、相反するものが共存しながら、複数の可能性が同時存在する「陰陽太極図的メディア空間」を探求しつつ、立体、映像、中間媒介物を組み合わせ、作品を制作。
■市川しょうこ
〔主な展示履歴〕
2023年
令和5年度メディア芸術クリエイター育成支援事業 《 横浜微塵美展 》
2022年
個展「かぞく展示」 SCOPP CAFE 内ギャラリー
1992年愛知県出身。神戸大学大学院応用化学専攻修了。
化学メーカーの化粧品・医療品の研究開発を経て、現在はヘルスケア系スタートアップ企業の取締役として分子認識化学を研究している。
大学時代に受けた"化学平衡"の授業から、変わっていないようで常に変わっている世界に面白さを感じ、変化や万物の相対性に興味を持つ。未可視の可視化をテーマに、自然現象を物理特性や分子構造として要素分解・再構築することで、対象物が元来内包している潜在的な性質を引き出したインスタレーション作品・立体造形を制作している。
- 時間
- 10:00-18:00(最終日17時まで)
- 料金
- 入場料500円
- お問い合わせ
- art gallery OWL
gallery.owl.yamate@gmail.com
情報更新日:2024/1/15
会場情報
Art Gallery OWL
詳細- 所在地
- 横浜市中区石川町1-54-5
- 最寄駅
-
石川町(JR 京浜東北・根岸線) 徒歩5分
元町・中華街(みなとみらい線) 徒歩15分
JR 桜木町駅発 神奈川中央交通11系統「イタリア山庭園前」下車 徒歩2分 - 休館日
- 特になし
地図