JR直通線や今年(2023年)3月には相鉄・東急直通線が開通という話題でもちきりの相鉄線に乗り、目指す「いずみ中央」駅の少し手前で、秀麗な富士山を目にすることができ、思わず感動しました。駅に降り立つと、少し遠景にのびやかな山並みが目に飛び込んできます。線路を挟んだ向こうには和泉川が流れていて、自然豊かな風景に気持ちがやわらぎます。その改札から歩いてすぐの建物内に、テアトルフォンテはあります。
3階の入り口を入ると、目の前にひろがる吹き抜けの明るい空間に驚かされます。大理石の床に、高い天井の天窓から陽の光が差し込むエントランスに足を踏み入れた瞬間から、ドラマティックな気分に浸れてしまいます。
そんな贅沢なエントランスに圧倒されながら、まずはテアトルフォンテの最大の特徴である「ホール」に向かいます。
客席数は340席とこぢんまりとしていますが、額縁で囲まれたような舞台の顔立ちといい、馬蹄形に配置された客席といい、特別な凛とした空気が漂っています。表に見えるところだけではなく、舞台の裏に大きく広がる奥舞台や、奈落(舞台下の空間)があり、緞帳や照明器具をつるすスペースにとても高さがあることなど、演劇、舞踊、古典芸能、オペラに応えられる本格的なホールであることが見て取れます。さらに、舞台を客席に向けて張り出すことや、オペラの演奏のために客席前方をはずしてオーケストラピットを設営することもできるのだとか。ここで演じられるドラマや奏でられる音楽を想像すると、わくわくしてきます。
この日はちょうど「ホールでグランドピアノを弾こう」が開催されていました。これはこのホールを1時間もしくは2時間貸し切りでき、グランドピアノを思う存分に弾くことができるという企画。申し込み日にはすぐに予約が埋まってしまう人気企画です。
グランドピアノや録音機材の準備に忙しく働く、舞台スタッフの関根崇弘さんに作業の合間にお話を伺いました。
――テアトルフォンテはどんなところが魅力でしょう?
「テアトルフォンテには専属の舞台スタッフが4名います。小さなホールですが、身近に本格的な音楽や舞台を楽しんでもらえることが自慢です。地元の方々の喜ぶ顔を見ることができるのが励みですね」と笑顔で話してくれました。
5月にはピアノが新しくなるとのこと(YAMAHA CFX)。ますます充実の響きが聴こえるホールとなることでしょう。
舞台の裏側にまわるとびっくりするほど大きなスペースが広がっています。オペラや演劇の場面転換や巨大な舞台美術道具の収納に対応しているそうです。
ホールを出て美しいスクエアを通り抜けて、次に向かったのは、「ギャラリー」で開催されていた企画展[#住むなら泉区「緑園都市界隈の風景」写真展]です。
「#住むなら泉区」は泉区役所のキーワードでもあり、泉区公式インスタグラムなどSNSで泉区の魅力を発信し、転入定住促進を図っているのだそう。そんな行政の動きとも連動するように、この写真展は、「泉区への思い入れや愛着をさらに持ってもらう機会にしたい」(佐藤館長)とのねらいで開催されました。泉区には相鉄いずみ野線と横浜市営地下鉄の2路線の9駅がありますが、そのうち今回取り上げられたテーマは相鉄いずみ野線の緑園都市駅とその周辺。
写真展は6つのコーナーから構成されており、公募写真展のコーナーには、緑園都市界隈の何気ない日常の風景を切り取った写真や、お気に入りの建物や自然の風景を収めた作品が並びます。
「すずちゃん先生の初心者のための写真講座写真展」コーナーは、2023 年2月4日に開催した同講座の受講生が応募した「相鉄線のある風景」をテーマとする写真です。
泉区内には、風景写真を楽しむ写真愛好家グループがいくつかあるそうで、そのうちのひとつ「緑園フォトクラブ」からの出展コーナーでは、緑園都市の美しい街並みと四季折々の自然を実感できる作品が並びます。
また、昔の写真を展示するコーナーも目を引きます。住民主体で街づくり活動を行っている「緑園都市コミュニティ協会」に保管されていた、緑園住宅地の開発当時のスナップ写真の数々は、緑園都市駅周辺の開発前の豊かな緑や開発中の様子を知ることができる貴重な資料です。
この写真展に興味深げに見入る来場者のお二人にお話を聞きました。
近くの職場から仕事の合間に訪れた会社員の岩田さんは、
「地域の情報紙で知って、職場の近くなのでふらりと来てみました。泉区にある9駅は駅ごと、エリアごとに個性があっておもしろいです。緑園都市は駅前に立つマンションや大学(フェリス女学院大学緑園キャンパス)など、若い世代でにぎわうイメージですね。そして、街に愛着を感じている人が多いエリアだと思います。文化的な催しやイベントの中心になっているテアトルフォンテの情報にはいつもチェックを入れています」と話してくれました。
もうひとりの来場者、緑園都市に20年来住んでいるという植谷さんは、
「テアトルフォンテのチラシを見て、自分の住む街、緑園都市をもっと知りたいと思って来ました。20年ほど前に自然がいっぱいある環境が気に入って、ここに家を建てたんです。泉区に住む人は、それぞれの家の前に木を植えたりして、自然と調和した暮らしと美しい街に住むことを積極的に楽しんでいると思いますよ。こうした地元愛をくすぐる企画はうれしいですね」と話し、お気に入りスポットを捉えた写真を見つけて楽しそうでした。
ギャラリーを出ると、さらに2つの部屋が並んでおり、隣にあるのは「創作室」です。大きな作業台、水場、イーゼル・ 木工具・アイロンなどの設備も備えているので、美術・工芸作品の制作活動に適しています。ここでは月に2回のペースで活動を長年続ける水彩画グループにお会いしました。おもに野外でスケッチ活動をしているそうですが、冬季にはテアトルフォンテの創作室が活動場所です。主宰する北條怜さんは「開館当時から利用しています。私は車ですぐの近所に住んでいますし、会員たちも皆通いやすいのでとても便利です」とここを拠点にする理由を話してくれました。地域のアート愛好者にとって、テアトルフォンテが活用されている様子がうかがえます。
さらに創作室の隣には「リハーサル室」があり、ダンス・バレエの稽古、器楽・合唱の練習や小規模な発表会もできるとあって、平日も利用者が絶えないそうです。
最後にあらためて佐藤館長にお話をお聞きしました。まず、今年は1993年の開館から30周年を迎えるとのことで、アニバーサリー・イベントの予定を伺いました。
「昨年9月から実施している『IZUMI TWINS OPEN DAY』を今年は30周年記念として泉公会堂と盛大に共同開催します。泉区には、JR線や東急線との相互直通運転や、ゆめが丘開発事業などによって、子育て世代の転入者の増加が見込まれているんです。そこで、古くから住み続ける区民と新たに転入してきた区民をつなげるコミュニティづくりを、文化芸術活動を通して行いたいと考えています。『IZUMI TWINS合同オープンデー』がさまざまな世代の誰もが立ち寄って楽しめる企画となるように、現在知恵をひねっている最中なんですよ」
そして広報誌の『FONTE MESSENGER』(月刊)を手に取りながら、「テアトルフォンテは“メッセンジャー”として、文化や芸術や感動、そして泉区の魅力を“届ける”役割を果たしたいと思っています」と熱く語る佐藤館長の意気込みからは、地域への愛着とともに使命感が感じられ、その気持ちが通じて区民に愛され、親しまれる施設となっていることが浮かびあがってきました。
●Information
横浜市泉区民文化センター テアトルフォンテ
➤アクセス 相鉄いずみ野線いずみ中央駅から 徒歩1分
➤WEBサイト https://www.theatrefonte.com/