東京スカイツリー®のデザインを手掛けた 澄川喜一の展覧会で不思議体験

レポート 美術

澄川喜一展


日々の生活を送る中で、無意識のうちに目に入る建造物。

特徴的な形をしていて、ふと、あれはなんだろう?と疑問が浮かんだり、そのフォルムが目に入ると、「あー(地元に)帰ってきたな…」なんて思ったりした経験はありませんか?

 

彫刻家・澄川喜一は、創作活動期間は優に60年以上、日本各地に代表的な建造物を生み出してきた「戦後抽象彫刻のパイオニア」。環境造形物のデザイン監修など、都市の巨大構造物に関わる仕事も手掛けてきました。

「東京スカイツリー®」や東京湾アクアライン川崎人工島の「風の塔」、東京駅八重洲口の「グランルーフ」といえば、その姿を思い浮かべられる人は多いのではないでしょうか。

澄川喜一展【「風の塔」1997年/東京湾アクアライン川崎人工島/撮影:村井修/*デザイン監修】
海に吹き続ける風を利用して、海底トンネルの空気を入れ替える換気塔です

【「GRANROOF(グランルーフ)」2013年 東京駅八重洲口/撮影:内海敏晴/*デザイン監修】
「光の帆」をコンセプトにデザインされています

 

横浜市で言えば、大岡川にかかる一本橋や道慶橋、鶴見川の鴨池橋や横浜駅近くの万里橋など、生活に欠かせない橋を手掛けていたり、
澄川喜一展【「一本橋」1988年 大岡川(横浜市南区)】
京浜急行線南太田駅近くの一本橋
澄川喜一展 【「万里橋」1988年 帷子川(横浜市南区)】
丸みを帯びた柵が特徴的な万里橋


東京スカイツリー®の足元にある石の彫刻「TO THE SKY」をはじめ、いろいろな街のいろいろな場所に同氏の作品を見ることができます。

澄川喜一展【撮影:内海敏晴】
東京スカイツリー®とそのデザイン監修を担当した澄川喜一氏。
東京スカイツリー®の足元に立つ石の彫刻「TO THE SKY」も澄川氏の作品

 


そんな生活に密着した場所で目にする、環境造形や野外彫刻のルーツを感じることができるのが、横浜美術館の企画展澄川喜一 そりとむくり展です。
(2020年4月6日現在、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため休館中です。)

 

今回は、「芸術なんて分からないから」と敬遠している人にこそ体験して欲しい、彫刻展の世界をレポートします。
会場は、みなとみらい線みなとみらい駅から徒歩3分の横浜美術館


東京スカイツリー®のデザインにも採用され、展覧会のタイトルにもなっている「そり」と「むくり」。

「そり」は、日本刀の刃を下に向けたときに上辺に現れるそりのこと。反対に「むくり」は日本刀の刃の側のように膨らんだラインのこと。

日本刀に見られるように、「そり」と「むくり」のフォルムは、まさに日本独特の美しさなのだといいます。

 

また、学生時代を送った山口県岩国市で「錦帯橋」の造形美に魅せられ、ものづくりになりたいと思ったことが、澄川氏の創作衝動のルーツ。

 

さらに「日本は木の国。どの県に行っても90種類くらいの木があります。そんな日本の山を大事にして、素材感を重視してきた」そうで、そんな澄川氏の作品は、日本の伝統美と、日本の地で育まれた素材のコラボレーションです。

釘を使わずに組み立てられる木の彫刻は、伝統的な日本建築に通ずる部分も。

だからこそ、日本人である自分の中心部分を刺激されるのか、立ち並ぶ作品群の中に足を踏み入れると、どこか懐かしく、心が安らぐ感覚にとらわれるから不思議です。

澄川喜一展森のただなかに足を踏み入れたような、安らぎを感じる作品群

澄川喜一展全てのパーツが組み合わさって初めて自立する、絶妙なバランス感覚も見所の一つ



また、澄川氏の言葉で印象的なのが「木はノミで削るとおしゃべりになってしまう」というもの。

年表のように年代別に並べられた作品は、いつからかノミで表情を付けたものがなくなり、カンナで磨くようにすっきりと削り出された作品へと変化していきます。

シンプルに整えられ、絶妙なバランスを保つ作品たちは、ズイズイと主張してくるわけではなく、ふと目に止まると、その作品の内側から何かを訴えてくるようです。

アンテナの周波数が合うと、何かを感じ取れそうな、これもまた、不思議な気持ちになりました。

澄川喜一展異なる種類の木を実際に触って質感を確かめられるコーナーもあります(新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止)

澄川喜一展どうやってくっついているのだろう…見れば見るほど不思議な彫刻も


また、彫刻作品の展示は、絵画とは違い、見る角度によってくるくると表情が変わるのも面白さの一つ。

触れさえしなければ、すぐそばまで近づくことも、アクティブにのぞいてみることもできます。

澄川喜一展中央はその名も「マジック・ボックス」という作品。この箱の中、どうなっているんだろう…と気になったらぜひ、のぞいてみてください。予想外の姿があるかも

澄川喜一展しゃがんでみたら、裏側に無数の穴が空いていてびっくり! 木が割れるのを防ぎ、重量を軽くするために開けられているそうですが、自分だけの発見があるとちょっぴり嬉しくなります

近付いてみたら、ただの直線だと思っていたところに思いがけない模様を見つけたり、木材の違いを発見することも。

「同じ種類の木でも、ひとつひとつ、素性みたいなものがあります。それぞれの素性を読んで、木の気とこちらの気を合わせていく。木に内在するものを削り出していくのです」と澄川氏。

澄川喜一展2020年2月14日に行われた内覧会で、自らの作品について語る澄川喜一氏。


そう言われてみれば、なんだか特に気になるな、なんて作品がちらほら。
もしかしたら、その作品に使われた木材と、自分の波長が合っている証拠かもしれません。


初めて見るはずなのにどこか懐かしい、なぜか安らぐ、そんな不思議な体験でした。

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作品との相性はやっぱり生で見てみないと感じることができないもの。

心をつかまれるようなお気に入りに出会えたら、会期後は、その作品がもともと置かれている美術館に行って再会を果たしてみようかな、なんて新しい楽しみも見つかるかも。

 


展覧会の特設サイトでは、澄川氏のアトリエ訪問記やイベントレポートなど、自宅でも楽しめるコンテンツが続々と公開されています。

 

教えて澄川先生』のコーナーでは、
「ご自身の作品で特に思い入れのある作品はありますか?」「みんなに愛される秘訣は?」
などといった60項目以上の質問から、澄川氏の素顔に迫ります。

ぜひこちらも覗いてみてくださいね。


<展覧会の詳細>

「澄川喜一 そりとむくり」展

期間:2020年2月15日(土)~2020年5月24日(日)
※2020年4月6日現在休館中。最新情報はウェブサイトをご覧ください。

時間:10:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで、5月の金・土曜は20:00まで)

場所:横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)

観覧料:一般1500円ほか

 

<街なかの澄川喜一作品はこちらでチェック>

彫刻家 澄川喜一 ホームページ

 


取材・文/やまだ ともこ  写真/大野隆介

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