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お仕事インタビュー

vol.11 子どもアートプロデューサー 浅葉 弾 さん

京急線の金沢文庫駅から称名寺方向へ歩いた住宅街に、突然、異国のような建物が現れます。色彩とエネルギーに満ちたその建物は、ジャンルや世代、国・地域を越え、アートで人と人をつなぐ自己表現の発信基地「アサバアートスクエア」。母の浅葉和子さんとともに主宰を務めるクリエイティブ・ディレクターの浅葉弾(あさばだん)さんに、子どもを対象としたデザイン教室やワークショップでのお仕事についてうかがいました。

デザイン教室のほか、ギャラリーやステージなどさまざまなスペースがあるアサバアートスクエア。イベントやライブ、ワークショップ等に利用できる場として貸し出しも行っている。併設のカフェではオーガニック野菜を使ったこだわりのランチも

グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタート
自然な流れで母から受け継いだ「子供デザイン教室」

ともにグラフィックデザイナーである父・浅葉克己と母・浅葉和子をリスペクトしている浅葉弾さん。幼少の頃からアートが身近にありましたが、絵を描くことに夢中だったわけでもなく、自由気ままに過ごすうちに自ずとデザイン科のある学校に進学したといいます。

浅葉克己デザイン室で8年間修行を積んだ後、広告代理店に3年半勤め、2005年に独立して原宿でダンデザインを設立。昨年2月に地元・金沢文庫に事務所を移し、パッケージデザインやイベントのビジュアルデザインなど多様な商業デザインで活躍しています。

*子供デザイン教室。現在は机をパーテーションで仕切って授業を行っています

その一方で、「子どもアートプロデューサー」と称して、子どもを対象としたアート活動も行っています。まずは「子供デザイン教室」についてお聞きしました。

「子供デザイン教室」とは、1968年に浅葉和子さんが、ものづくりの喜びと自由な空間の中で子どもが本来持つ可能性を育む教育を目指し、ここアサバアートスクエアの中でスタートしました。今年で53年目を迎えた教室を、弾さんは幼少の頃から見ていたといいます。

「2014年から教室の指導員として関わるようになり、母に教えてもらいながら少しずつ教室を受け継いでいきました。子どもたちが通うのは月4回で、デッサンなど基礎的なことも教えますが、粘土細工をしたり、自由に楽器や時計、熊手などをつくったりと、テーマを考えて行っています」

写真左は、流木やプラスチックのお弁当容器、ダンボール、釣り糸で作った弦楽器・三線(さんしん)。ペグ(糸巻き)はワインのコルク。写真右は熊手

「あともう少し」粘らせることを大切に
子どもたちが達成感を味わう顔を見るとたまらなく嬉しい

「子どもが一つ壁を越えていいものをつくると、達成感や感動で目をキラキラさせる。その顔を見るのがたまらなく嬉しいです。そうなると、子どもはまた次の感動を求めて新しい挑戦をする。一人でも多くの子に『できた!』という喜びを味わってもらうことが使命ですね」

教室には、創作のヒントになるものが揃っています

いいところを見つけてほめ、ノセたりもしますが、「粘る」ことを一番重要に考えているそう。たとえ素敵な作品でもすぐにOKを出さず、「もうこれでいっか」と言う子には「ちょっと待って」と声をかけます。「塗りがまだちょっと甘いな~」など、もう1歩前進できるヒントを与えて自分で気づかせていきます。

「途中でアドバイスをしても自分流を貫く子もいるのですが、それはそれで自分の考えがあってのことなのでまったく問題なし。しかし、完成したものをチェックする際にアドバイスをすると、ほぼ全員、『なるほど!』と聞いてくれますね。一つの可能性として伝えているだけですが、習慣になれば、今後、1歩でも2歩でも先のゴールを見つけることができるのではないかと思います」

ビンやペットボトルの蓋、ボタンなど、身近なものが作品づくりの素材になります

子どもたちと一緒に作る楽しさを学び
新しいことにチャレンジしていくチーム「虹のあそび隊」

2020年2月に「虹のあそび隊」というアートユニットを組み、子どもアートワークショップやイベントを行っています。メンバーは弾さんを含む5人。うち2人はもともとデザイン教室に通っていた生徒さんだそうです。

実は「虹のあそび隊」は結成早々にコロナ禍になってしまい、ワークショップやイベントの予定がすべて吹き飛んでしまいました。そこで、自己紹介がわりに動画配信やライブ配信でのワークショップを始め、継続して配信中です。動画では段ボールなどの捨てられてしまうものや身の回りのものを素材として、象やキリンやライオンなどの迫力ある造形をつくっていて、驚かされました。

現在、イベントは学校や地域コミュニティ、動物園や商業施設などで開催していますが、それぞれ時間も定員も異なるので、まずは親子で楽しんでもらう、自由にのびのび描いてもらう、みんなで力を合わせて作ってもらう、達成感を味わってもらう、など場所に合わせて実施の仕方を考えています。

「イベントでは、『いつも使っているものをすぐ捨てずに一回見直さない? そうするとこれだけのものがつくれるよ』というメッセージを必ず伝えるようにしています。リサイクルや環境問題もどこかで意識してほしいなと。その時にはわからなくても親が頷いてくれたり、2回以上参加してくれている子が、質問に積極的に答えてくれたりしますね」

*2021年の夏に栄区民文化センターで開催されたアートワークショップの様子

内容を考えるのも準備も運送も大変そうですが、「商業デザインもいいですが、子どもとつくることが楽しくなっちゃって。子どもたちにいっぱい教えて感動してくれることが、僕にとっての幸せってことかな」と笑う弾さん。「あのカラフルなチーム面白いね」と存在が知られて、アートに関心を持ってくれたら嬉しいと語ります。

*ららぽーと海老名でのイベント「SDGsアート縁日」。コロナの影響でアートワークショップは実施できませんでしたが、オリジナル手作り扇子キットを配布するなど、さまざまな工夫を凝らしています

地元、金沢文庫のアートフェスティバル
地域で盛り上げる金沢文庫芸術祭

さらに弾さんは、毎年9月に開催されるアートフェスティバル「金沢文庫芸術祭」の実行委員長を8回目から務めています。「こどもの未来は地球の未来」をスローガンにしたこの芸術祭は1999年にスタート。

海の公園に2つのステージがあり、地元からバンド、ダンサー、パフォーマーなどが参加して、陶芸、アクセサリー、オブジェなどの展示ブースやフード屋台なども多数出店する、賑やかな芸術祭です。オープニングフェスティバルでは朝から晩まで毎年3万人くらいが訪れるそう。

*金沢文庫芸術祭で、子どもたちによるダンスのステージ

また「街中をアートで繋げよう」との想いから、金沢区近郊で活動する作家・アーティストと地域住⺠を繋ぐ活動も。会期中は、近郊のさまざまな場所でも作品展、ライブ、ワークショップが開催され、街中がアートで溢れます。

「もとは、母と近所のおじさん達の3人でお茶を飲みながら『ここには自然もお寺もアート教室もあるし、何かやらないともったいないね』という話で始まった手づくりのお祭りです。新人からベテランまで実行委員みんなが楽しみややりがいを持って活動できているかなど、俯瞰的に見ることで、僕自身も成長できたと感じますね。22回目の今年は緊急事態宣言で、残念ながら昨年に続き中止になってしまいましたが、今後も継続するつもりです」

実行委員のほとんどが市民によるボランティアというのも、この芸術祭が地域で親しまれる理由の一つでしょう。

*金沢文庫芸術祭で、仮装して参加する弾さん

日常で誰もが関わっているデザイン
うまく生活に取り入れ、人生を豊かに

ものをデザインするだけでなく、人と人との関係をデザインしているようにも見える弾さん。弾さんにとってデザインとはなんでしょうか。

「洋服のコーディネートや料理の盛り付けもデザインですし、デザインには誰もが関わっていますよね。デザインすることによって、その感動する価値観がいろいろなところに生まれます。そんなデザインをいかに生活に取り入れて、自分や他者を満足させるかが幸せに生きるコツかなあと。人生は感動したもの勝ちだと思っているんですよ」

 

●My Favorite
サンバイザーが大好きで、さまざまな素材や色のものを持っている。選ぶ基準は直観。なかには帽子の上を切り取って、サンバイザーにしたものも。「虹のあそび隊」のスイッチを入れるアイテムでもあります。

Profile

浅葉 弾 Dan Asaba

クリエイティブ・ディレクター/アサバアートスクエア主宰/ダンデザイン代表

1972年横浜生まれ。株式会社浅葉克己デザイン室にて8年間グラフィックデザイン、タイポデザインの修行を積み、2002年6月に株式会社博報堂C&Dに中途入社し、広告クリエイティブの経験を積む。2005年10月にダンデザイン有限会社を設立し独立。以後、広告クリエイティブ、ブランドデザイン、エディトリアルデザイン、イベントクリエイティブを中心に活動中。2014年より浅葉和子デザイン教室の指導員になり、現在は主宰を務める。2006年よりアートイベント「金沢文庫芸術祭」の実行委員長をライフワークとして行う。

インタビュー・文:白坂由里
写真:大野隆介(*印の写真以外)

<よむナビ お仕事インタビューについて>
芸術文化に関わる横浜ゆかりの方々から、その仕事内容や仕事への想いを訊くインタビューシリーズです。
芸術文化と一括りに言っても、演奏家やアーティストはもちろん、マネジメントや制作・舞台スタッフなど、さまざまな職種の人たちが関わりあっています。なかには知られざるお仕事も!?
このシリーズでは、そんなアートの現場の最前線で働く人たちのお仕事を通して、芸術文化の魅力をお伝えしていきます。

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