意外なことに、一番大事な職務は「検品」
野中貿易は1917年に野中雄三氏が「野中楽器店」として設立し、1953年に「野中貿易株式会社」となりました。現在は3代目の野中英樹氏が社長を務めています。渋谷にショールーム、九州に支店がありますが、会社は100年以上横浜を拠点にしており、「野中楽器店」は横浜市中区・元町が、「野中貿易株式会社」は同じく中区・弁天通りが創業の地です。現在も本社が中区太田町に、このテクニカルサービスが中区山田町にあるほか、新横浜や都筑区にも関連部門が置かれています。
「横浜は素晴らしいところ。歴史も深いし、たくさん見どころがあります。港町というのもいいですね。会社にいても時々汽笛が聞こえますよ」と飯塚さん。すっかり横浜に根付いています。
ノナカのリペアマンが扱うのは“ほぼ全種類の管楽器と打楽器”です。
「基本的に自社が輸入しているメーカーの楽器を受け入れており、依頼主はプロアマ問いませんが、多くはプロや音大生からの依頼です。いまここに所属しているリペアマンは14名で、担当は金管、木管、サクソフォンに分かれていて、それぞれ専門分野を受け持ちます」
飯塚さんは金管楽器の担当。しかしこの道35年ともなれば、仕事内容も若手とはひと味違います。
「私が扱うのはトップ・オーケストラやソリストとして活動している奏者の楽器がほとんど。いろいろな付き合いの中で、自社で取り扱っていない製品も手がけます。これによって競合メーカーのデータ収集ができ、それをフィードバックすることで井の中の蛙にならずにすみます」
管楽器の修理やメンテナンスといっても、作業は、叩く・擦る・削る・曲げる・磨く・溶接する・部品を作る・部品を替えるなど多岐にわたっています。物理的に直せばいいというわけではなく、音響学的な知識も必要です。具体的な不具合以外に、楽器全体をチューンアップ(調整)したい等の要望も含めて「ありとあらゆることに対応する」ので、すべてがケース・バイ・ケース。なかには重すぎて1階にしか置けない機械や高熱を発するバーナーでの作業もあるなど、驚きの連続でした。
◎修理やメンテナンスに使う、おもな道具・機械
修理等の依頼を受けてから納品までの日数もさまざまとのこと。
「1日で戻す場合も、1年、なかには3年以上かかる場合もありますが、通常は早くて1週間、平均的には2~3週間くらいでお戻しします。ただし弊社が販売した新品に不具合があった際には、1日2日ですぐ直すというのが社の方針。また古い楽器や特殊な状況など手間と時間がかかる場合は、お客様のご要望との兼ね合いをみながら長くお預かりすることもあります」
しかしながらノナカでは、修理などのアフターフォロー以上に重要なことがあるといいます。
「弊社の場合、輸入された新品の楽器の検品が一番大事です。楽器ひとつにも、フランス、アメリカ、ドイツほか多岐にわたる国の文化が関わってくるため、それらを大事にしつつも、傷や凹みがないか、機能は万全かなど細かく検品し、日本の市場に受け入れられやすくなるように調整するのが、当セクションの最大の使命です。これはノナカ独自のこだわりであり、ここまで徹底して検査している会社は他にないと思います」
この点が多数のメーカーやユーザーから長年信頼を得ている大きな要因に違いありません。