みどりアートパークは、長津田駅改札からデッキを通ってそのまま来られる駅近の区民文化センターです。陽光が差し込む明るいエントランスからホワイエに入ると、最初に目を引くのは壁面に貼られたドーナツ型のモニュメント。これは、みどりアートパークの建設を含めた駅前再開発により伐採したケヤキやサクラの木を使って地元の小中学生が一つひとつ描いて作ったものだそうです。
利用できる施設は、多目的ホールを始め、広々としたホワイエ、地下一階にはダンスレッスンも出来るリハーサル室、ギャラリー・練習室・会議室などがあり、区民を中心に多くの方が利用され、すぐに予約が埋まってしまうそうです。シニア女性や若いお母さん世代の利用が多いので「働く世代の男性にも利用していただけるような企画も考えたい」との事でした。
響きが良いと評判の多目的ホールは、一般席の他に防音が効いた親子室や車いす席があり342名まで収容できます。音響反射板を備えたステージは、クラッシックの演奏を始め演劇、ダンス、映画上映など用途に合わせたセッティングが可能。また、区民文化センターでは珍しい、ヤマハピアノの最高位機種CFXを完備。「みどりアートパークでヤマハCFXを弾こう!」というイベントはすぐに予約が埋まってしまうそう。
どのような催しが多いのか伺うと「音楽利用の他、ダンスやパフォーマンス、落語など、利用者のニーズに合わせた多様なイベントを行うよう心がけています」とのこと。
みどりアートパークの象徴的な事業としては、SDGsを意識したもの、インクルーシブな取り組みに力を入れている点で、SDGsを題材としたドキュメンタリー映画の上映やインクルーシブダンスのワークショップがあると、小野館長にご紹介いただきました。
そのインクルーシブダンスのパフォーマンスも披露されるという、オープンデーについて伺うと「入場料無料・予約なしで誰でも気軽に来てもらえる、みどりアートパークの文化祭みたいなものです」と答えてくれました。
今回初めての試みとなる「オープンデー」は、これまで台風やコロナ禍でなかなか実現できなかったそうで、スタッフ全員が力を合わせて取り組んだイベントだそうです。
早速、各イベントを回ってみることにしました。
エントランス前で行われたマルシェは、雑貨の販売やアクセサリー・アロマの販売、地元横浜で採れた野菜の販売が行われていました。手作りアクセサリーを販売していた中島さんは、今日のために作った作品もありますとにこやかに話していました。
エントランスから地下へと通じる階段の途中には、元神奈川新聞写真部長・大河原雅彦さんの写真教室に参加された方々の個性豊かな写真が展示されています。鮮やかな色で被写体を表現した作品、陰影を活かした作品など、立ち止まって鑑賞する方も見受けられました。
地下一階ではアート展とバスボム作りのワークショップが開催されています。
ギャラリーで開催された「みどり区民アート展」は、緑区在住・在勤・在学の方々を中心に毎年展示会を行っているそうで、絵画以外にも、ちぎり絵や押し花など92点の力作が展示されていました。
実行委員の深作三郎さんにお話を伺うと「みどり区民アート展は20年続く地元に根差した展示会で多くの区民が参加してくれています。これからも長く続けて、たくさんの方に作品を見ていただきたい」とおっしゃっていました。
会議室で行われた親子で参加できるスイーツバスボム作りワークショップでは、肌に優しく安心、安全な材料を使った発砲入浴剤のアイスクリーム作りが行われ、どれも使うのがもったいないような、おいしそうな出来栄え。小島優子先生の説明に従って、色とりどりの素材を選び、お父さんやお母さんと一緒に作った作品を、みなさん嬉しそうに眺めていました。
ホワイエで行われたロビーコンサートは、地元緑区の東洋英和女学院大学ハンドベル部が息の合った演奏を披露してくれました。部長の笹本さんによると、タイミングを合わせるのはお互いの気持ちだとか。それだけに7名全員が集まっての練習がなかなか出来ない点に苦労しているそうです。ハンドベルならではの豊かで澄んだ音色が奏でる、賛美歌やアニメの主題歌にホワイエいっぱいの観客が聞きほれていました。
また同じホワイエでは、同大学の有志が集まり「一杯のコーヒーから始めるSDGs」をテーマにスタートした「Eiwa Cafe」によるパネル展示やチャリティも行われており、チャリティに参加するとプレゼントされるコーヒーは柔らかい飲み口で、優しい苦みの味わいが魅力。2年生の叶納さんは「私はSDGsに興味があって参加しましが、コーヒーが好だからというメンバーもおり始めた動機はそれぞれですが、みんなで頑張っています」と、南米コロンビアでコーヒーを栽培している女性たちの就労支援の活動の様子など説明してくれました。
多目的ホールで開催されたのは、数々の賞を受賞した横浜市立田奈中学校吹奏楽部の演奏と、のはらハみどりによるインクルーシブダンスのワークショップ発表公演です。
地元の横浜市立田奈中学校吹奏楽部の演奏会には、特別ゲストとして田奈中学校のOBで、東京スカパラダイスオーケストラ トロンボーン奏者の北原雅彦さんも参加され、昨年(2021年)に開催された東京2020オリンピックでの演奏や、地元を懐かしむ話、生徒さんからの質問に答えるなど、地元愛に満ちた明るいキャラクターで会場を沸かせました。ステージ上では、東京スカパラダイスオーケストラ「Paradise Has No Border」、第45回全日本アンサンブルコンテストで金賞を受賞(トロンボーン四重奏)した田奈中学のトロンボーンとの共演など、生徒さんたちと共に迫力のあるサウンドだけではなく、鮮やかなテクニックで観客を魅了していました。
ホールが満席となったため、ホワイエの大型モニターで鑑賞された方も多く、演奏が終わるとホワイエからも大きな拍手が送られていました。
第二部は「のはらハみどり」によるインクルーシブダンスワークショップの発表公演です。
チーフファシリテータの西洋子先生による「のはらハみどり」の活動紹介の後パフォーマンスが始まると、ステージ一面がまるで野原になったかのように自由な広場へと変わります。1歳から70代まで、男性も女性も障がいのある人もない人も、約50名の方々が自分の野原を演じる様子は、まさにインクルーシブで個性豊かなステージ。のどかな野原にやがて雨が降り嵐になり、雨が上がるとまた「のはら」に集まって来るというストーリー以外、特別な演出も決まりごとも何もないと西先生が説明されたように、ひとり一人が自分だけの葉っぱや風や生き物たちを、身体をいっぱいにつかって生き生きと表現していました。最後に、野原に集まったみんなと「手あわせ」をして幕を閉じたパフォーマンスは、ダンスというよりもまさにアート。
来場者に感想を伺うと「知り合いが出演していたので来ましたが、普段の笑顔よりももっと輝いていてとても素敵でした」という方や、「今回のようなワークショップは初めてで、大変興味が沸きました。6か月の息子も穏やかに見ていて、親子で出来るというのも魅力ですし、ぜひ参加してみたいです」とお話ししてくださった西村小百合さん、友太さん親子など、実際に見て初めて伝わる独自の世界観に多くの方が感動していました。
ステージを終えたばかりの西先生に「のはらハみどり」についてお話を伺うと「私たちがやっているインクルーシブダンスは、どんな人もみんなが対等の立場で、色々な個性が出会って新しい表現が生まれる、自由にみんなで創って行くアートを目指しています」と答えてくれました。みどりアートパークで行っているワークショップも、練習して成果を出すのではなく、普段感じている世界をそのまま表現する場として、ファシリテータの「声掛け」で、それぞれが思い描く「のはら」の時間を楽しんでいるそうです。「指導するのではなく、何かが生まれてくるキッカケを作るのがファシリテータの役割です」。
現在行っているのは、Aコースが幼児と保護者が一緒に楽しむコースで、Bコースは年齢や経験、障がいの有無にかかわらずどなたでも参加出来るもの、Cコースはファシリテータを目指す人たちを育成するワークショップという3つのコースがあるそうです。今後は、この活動をもっと広げて、日本中に、世界中に届けられるようにしたいと、大きな夢を語ってくれました。
最後に、オープンデーを実施した感想を小野館長に伺うと「スタッフ一丸となって準備してきましたので、こんなに多くの方が来てくださったのは素直に嬉しいですね。その反面、初めてのイベントで至らない点があったことを反省し、今後の運営に反映させたいと思います」と、力強くお答え頂きました。来年には著名なジャズピアニストのコンサートや交響楽団のコンサートマスターによるワークショップを計画中とのことで、これからも楽しみなイベント満載のみどりアートパークでした。