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お仕事インタビュー

vol.7 振付家 鈴木 竜さん

気鋭のダンサーとして活躍する一方、振付家としても注目されている鈴木 竜(すずき りゅう)さん。ダンスハウス「Dance Base Yokohama」(DaBY/デイビー)のアソシエイトコレオグラファーを務めるなど、横浜での活動も多い鈴木さんに、ダンスのこと、振付のことをたっぷりうかがいました。

横浜ダンスコレクション2019 鈴木竜『AFTER RUST』 Photo:Sugawara Kota/横浜ダンスコレクション2017で、史上初のトリプル受賞の快挙を成し遂げ、フランスへ渡った鈴木さん。滞在中に『AFTER RUST』を制作し、ルーマニアのシビウ国際演劇祭や中国、ベトナムなどでの上演を経て、2019年の横浜ダンスコレクションで日本初演した

ジャズダンスから入り、バレエを経て惹かれたのは
コンテンポラリー・ダンス

ダンスの振付といってもバレエなどの舞台芸術、あるいはもっとショービジネス寄りのミュージカル、タレントやアイドルに向けたものなど、いろいろある中で、鈴木さんはコンテンポラリー・ダンスを中心に活動されています。

「子どもの頃にジャズダンスを始めてクラシック・バレエに進み、イギリスのバレエ学校(名門ランベール・スクール)に留学し、そこでコンテンポラリー・ダンスに出会いました。留学中は、イギリスを拠点に世界的な注目を浴びる振付家ホフェッシュ・シェクターの動きやコンセプトの強さと自由さに衝撃を受けましたね。僕は3年ほどイギリスのダンス・カンパニーで踊り、現在は日本を拠点にコンテンポラリー・ダンスを主戦場にしています。2019年に自分のカンパニーeltanin(エルタニン)を立ち上げました。自分のソロもカンパニー作品も、基本的に自ら振り付けています」

コンテンポラリー・ダンスは、そのまま訳すと同時代の、現代のダンスという意味ですが、そもそもどういうダンスを指すのか、鈴木さんのお考えを聞くと……。

「これは難しいんですよ。舞台芸術の世界でコンテンポラリー・ダンスという言葉が使われるようになって30年以上経ちますが、人によっていろいろな考え方があり、確定した定義はないんです。あえて言うと“クラシック・バレエやヒップホップや舞踏などさまざまな背景を持った人が、ダンスによって新しい世界を切り開く作品を創っている”、それを便宜上コンテンポラリー・ダンスと呼んでいる、と僕は考えています。もちろん技術と鍛錬は絶対的に必要で、僕は常に身体による説得力が失われないように意識しています。言葉を使わないので、わかりにくいから苦手という人もいますが、ダンスの魅力はわかりやすさだけではないですし、ダンスの沼はとても深くて楽しいので、ハマると抜けられなくなりますよ(笑)」

振付をするまでのアプローチは人それぞれ
皆で同じ動きをすることだけがダンスではない

振付の方法は、頭の中である程度組み立ててから、あるいは身体を動かしながら創るなど、人によって違いがあるといいます。

「僕自身は、さまざまな方法で振付をしています。最初に曲を決めてから創ることもあれば、タイトルと照明を先に決めて創ったり。先にテーマを突き詰めてから動きを創ることもありますし、舞台美術や空間のデザインがバッと頭に浮かんで、そこから作品を創っていくことも多いですね。いつも同じ創り方ではパターン化してしまうので、“どう振り付けるか”、その方法を考えるところから振付は始まっているんです」

プロフェッショナルなダンス環境の整備やクリエイター育成にとどまらず、ダンス鑑賞者に向けた多様なトークイベントやワークショップなども行う「Dance Base Yokohama」。写真は「ダンスのアクセシビリティを考えるラボ~視覚障害者と味わうダンス観賞篇~」リハーサルの様子 (C) Naoshi HATORI

「最近は他者と自分の身体の関係性をよく考えます。対象が人でも物でも、それを支えようか排除しようか、と考えながら身体を動かすだけで、ダンスになっていくんです。人によって反応の仕方が違うので、独自の動きが生まれてくる。その中から面白い動きをピックアップしていったりします。音楽に合わせて皆が同じ動きで踊るだけがダンスじゃない。ダンスはもっと自由なものなのだと考えています」

ダンサー、そして振付家としての鈴木さんの活動は、とても自然な流れで繋がっているように感じますが、振付家のバックグランドも人それぞれです。

「たまたま僕は“ダンサーから始め、振付も手がけるようになった”タイプで、こういう人は多いと思います。そして自分のダンス・カンパニーを作って公演をしたり、コンペティションやフェスティバルで知名度を上げて仕事の幅を増やしていく。もちろん、“優れたダンサーだけど振付には全く興味がない”という人もいますし、なかには“ダンスや振付の教育を受けてはいるものの、プロのダンサーとしてのキャリアは全然ない。けれど世界的な振付家”という人もいます」

コンテンポラリー・ダンスの重要拠点、横浜での挑戦

1996年から現在まで続く「横浜ダンスコレクション(ダンコレ)」はダンサー・振付家の登竜門となっており、鈴木さんは2017年のダンコレにおいて「若手振付家のためのフランス大使館賞」「MASDANZA賞」「シビウ国際演劇祭賞」を史上初トリプル受賞する快挙を成し遂げました。

「僕の場合、仕事のギアがひとつ上がるとき、不思議に横浜と縁があるんですよ。ダンコレの受賞以降は、さらに責任ある仕事を任せてもらえるようになりました」

日本のコンテンポラリー・ダンスの歴史で重要な役割を果たしてきた横浜ですが、2020年6月には「ダンスを社会に開いていくための場」としてダンスハウス「Dance Base Yokohama」がオープン。鈴木さんは、DaBYのアソシエイトコレオグラファーとしてさまざまな支援を受けています。

「現在DaBYで創作中の作品は、建築家や音楽家やダンサーを巻き込んで一緒にダンス作品を創る、というコレクティブなクリエイションに挑戦しています。もともと僕は音楽や照明デザインなども自分でやるタイプなので、あえて人に任せながら、自分にはない発想を取り込んで一つの作品を創る。これも『振付の挑戦』です。すでに2回、試演をしているのですが、こういうトライ&エラーをできるのが本当にありがたい。DaBYはダンスに関するさまざまな実験ができる、稀少な場所です。

コレクティブダンスプロジェクト 第2回新作トライアウトの様子 (C)Naoshi HATORI

2020年末には視覚障害の方々がダンス鑑賞をするための研究会(「ダンスのアクセシビリティを考えるラボ〜視覚障害者と味わうダンス観賞篇」)に短い作品を振り付けました。他ではまず出会わないようなプロジェクトで、じつに刺激的でした」

世界が一変するような状況で変化した思考
問われるダンスの存在意義

「昨年春に最初の緊急事態宣言が出たとき、たまたま自分が関わる公演がない時期だったので、実は当事者意識は希薄でした。しかしその後、海外の仕事や何か月も先の仕事がどんどんキャンセルになってくると、さすがに落ち込みましたね。自分の身体感覚と世の中が、こんなにも繋がることがあるのかと驚きました。自宅の床にリノリウム(ダンス用のマット)を敷いてオンライン・クラスをやったりもしました。しかしずっと仕事に追われていた状態から、つかの間解放されたことで、ランニングを始めたり本を読んだり、妻と話す時間が増えたりという時間を持てるようになった。多くの事が削ぎ落とされ、本当に必要なものが見えてきて、思考のパターンがまったく変わりました」

DaBYトライアウト[ダブルビル]のプログラム『never thought it would』の オンラインミーティングの様子

今の状況を前向きに捉え、作品に向き合っている鈴木さん。

「もちろんコロナ禍は悲劇ですが、今だからこそ生まれる表現もあるはず。昨年から取りかかっているインドのアタカラリ・ダンスセンターと共同制作しているプロジェクトも、当初は互いの国にレジデンスする予定でした。しかしリモート制作に切り替えたことで、逆に新しい発想のダンス作品ができつつあります。ダンスも含め、アート作品はその時代の空気を閉じ込める缶詰みたいなものだと思うんですよね。我々アーティストは、この時代の空気を作品に込めて、後世にいかに伝えるか、その存在意義を問われているんじゃないでしょうか」

●My Favorite
写真左:けん玉は幼い頃から続けていて、他者との関係性で身体を動かすという自身のダンスの仕方に密接に繋がっています。
写真右:寒いときには温まるまでウォームアップブーツを着用しています。

●Event
DaBYトライアウト[ダブルビル] 

日時:2021年2月9日(火) 18:30・2月10日(水) 18:30・2月11日(木/祝) 16:30
会場:Dance Base Yokohama
イベントページはこちら https://artnavi.yokohama/event/13085/

横浜ダンスコレクション2021
会期:2021年2月4日(木)~2021年2月21日(日)
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール、横浜にぎわい座 のげシャーレ
イベントページはこちら https://artnavi.yokohama/event/12914/

Profile

鈴木 竜 Ryu Suzuki

ダンサー/振付家

横浜に生まれ、山梨・和歌山・東京で育つ。英国ランベール・スクール卒。在学中はRambert Dance Companyの全英ツアーに参加、卒業後はPhoenix Dance Theatreに入団し、主要メンバーの一人として実力を認められる。2012年に退団後、ロンドンオリンピック開会式においてアクラム・カーン振付セクションに出演。帰国後は、日本を拠点にフリーランスのダンサー・パフォーマーとして世界のトップダンサーたちの作品に出演する一方、振付家としても多数の作品を発表。ソロ作品『Agnus』の第3回セッションベスト賞(神楽坂セッションハウス)、横浜ダンスコレクション2017コンペティションⅠでのトリプル受賞など注目を集めている。Dance Base Yokohama アソシエイトコレオグラファー。

インタビュー・文:乗越たかお
写真:大野隆介(*印の写真以外)
取材協力:Dance Base Yokohama

<よむナビ お仕事インタビューについて>
芸術文化に関わる横浜ゆかりの方々から、その仕事内容や仕事への想いを訊くインタビューシリーズです。
芸術文化と一括りに言っても、演奏家やアーティストはもちろん、マネジメントや制作・舞台スタッフなど、さまざまな職種の人たちが関わりあっています。なかには知られざるお仕事も!?
このシリーズでは、そんなアートの現場の最前線で働く人たちのお仕事を通して、芸術文化の魅力をお伝えしていきます。

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