JR根岸線、京浜急行線、シーサイドラインの3線の駅からアクセス可能という交通至便な「杉田劇場」。この愛称の由来は、館内ロビーに展示されている古いモノクロ写真からわかります。実は1946(昭和21)年に、現在の地からほど近い場所に「杉田劇場」という名の劇場がオープンし、まもなく当時8歳の美空ひばりが初舞台をふんだのです。そして2004年、磯子区民文化センターが開館するにあたり愛称を公募した際、「杉田劇場」という提案が多数あがり、磯子区の歴史をいろどったこの劇場の名が採用されました。以来、地域との結びつきを活かした活動や事業を繰り広げて、磯子区民をはじめ市民に活発に利用されています。
取材に伺った日曜日も、多くの利用者が訪れ、活気にあふれていました。リハーサル室の扉を開けると、ずらりと30人以上もの「杉劇リコーダーず」メンバーが大小様々なリコーダーを手にし、重層的な響きを奏でています。練習していた曲は『少年時代 バロック風』。ソプラノ、アルト、テナー、バスの4つのパートが重なり合い、柔らかな音が響き合います。
「杉劇リコーダーず」は“杉田劇場の顔”として、地域のお祭りや行事、学校のイベントなどにひっぱりだこのリコーダーアンサンブルです。開館翌年の2006年に磯子区民の企画アイデアから生まれ、結成15年目を迎えましたが、当初の参加者は12人だったそうです。今は11歳から80代までの実に幅広い年代の50名を超える老若男女が参加しています。
指導をしているのは、リコーダー界の第一人者・吉澤実先生。NHK教育テレビの番組「ふえはうたう」(1986~1997年)や「趣味悠々」(2001年、2009年)で講師をされていたことでも知られています。
「前打音を強調してみてください」「ここはアジタート気味に」「このバスはしっかりと」などと指示を出すと、すぐに修正して演奏するメンバーのみなさん。すると、吉澤先生は「うまくなったねぇ」とほめちぎります。
この日の練習は3月19日の定期演奏会に向けて熱が入った様子でした。驚いたのはレパートリーの幅広さです。『大きな古時計 モーツァルト風』『シャンソネッタ・テデスカ』といった、中世、バロック、ルネッサンス、古典派の曲から、現代の作曲家に依頼したオリジナル曲までを豊かな厚みのある演奏で聞かせてくれました。