京急線、横浜市営地下鉄ブルーラインの2つの路線が走る上大岡駅から徒歩数分の場所に、ひまわりの郷はあります。上大岡駅といえば京急線での1日平均乗降人員は14万人超え、横浜市営地下鉄線では7万人超え(ともに2019年度の数字)という巨大ターミナル駅。そんな上大岡駅に隣接していながらも、駅ビル「ウィング上大岡」の4階に位置するので、駅の喧騒とは別世界の空間が広がっているような印象を受けます。

駅やひまわりの郷の周辺にはさまざまなアート作品が設置されています。ウィング上大岡4階では村上隆さんの作品「DOB君、こんにちわ」が出迎えてくれます
ひまわりの郷の館内には、アコースティック楽器の響きが美しく伝わる最大429席のホール、音楽練習やワークショップだけでなく小規模な発表会にも利用できる音楽ルーム、美術作品などの展示・発表のためのギャラリー、練習室、会議室が備わり、多様な文化芸術活動の場となっています。
取材に伺ったのが土曜日だったため、館内にはシニア世代のご夫婦連れや小さい子どもと一緒の親子、孫と祖父母の三世代など、さまざまな姿が見られました。
港南区、特にこのひまわりの郷がある上大岡は、横浜や東京へのアクセスの良さからベッドタウンとして大規模な宅地開発が数十年前から進んだ地域で、商業施設も発展しています。利便性と落ち着いた居住性を併せもつ「住み続けたいまち」として人気があるそう。「『わがまち』『わがふるさと』として愛着を感じている人が多い土地柄で、そんな地域の人々が集う拠点として活発に利用していただいています」と沼部さんは話してくれました。

エントランスにはスタッフ手作りの七夕飾りが。来訪者が短冊に願いごとを書いていました
この日、ホールで開催されていたのはひまわりの郷の自主事業で「ウェルカムキッズ」と題した親子向けのコンサートシリーズです。港南区には新規に転入する子育て世代のファミリー層も増えており、そんな方々に向けての事業として年に6回開催されています。チケット代はひとり500円と、家族で来場するのに嬉しい価格も魅力のひとつです。
「宇宙からの贈り物 魔法のホルンを聴こう!! 」と題されたこの日の出演者は、ホルン奏者の福川伸陽さんとピアニストの新居由佳梨さん。NHK交響楽団の首席奏者として、またソリストとして活躍する福川さんの演奏が聴けるとあって会場は満席でした。0歳からの入場が可能で、赤ちゃん連れのお父さん、お母さんの姿も目立ちます。
福川さんは最初にデュカ作曲「ヴィラネル」でさっそく超絶技巧を披露して会場をひきこみます。
福川さんがマイクを握り「ホルンっていう楽器を聴いたことがある人は?」「どうやって音を出しているのか知っている?」と話しかけると、会場の子どもたちが手を上げて口々に答えます。そんな応答の後に演奏されたメシアン作曲「恒星の呼び声」(「峡谷から星々へ」より)では、そのカラフルなホルンの音色に、客席は聴き入っていました。
60分ほどのコンサートが終了した後に、来場者に感想をお聞きしてみました。
生後数か月の乳児を連れたお母さんは、「赤ちゃんとの生活の中で音楽を聴く時間を持ちたくなって、初めて来ました。市営地下鉄で数駅ですから大きなベビーカーを押して来てもとても便利でした。ホールのいい響きが気に入りましたし、子どももおとなしくしてくれたので、8月の公演にも来たくなってチケットを購入しました」と嬉しそうに話してくれました。
ひまわりの郷に何度も訪れたことがあるという小学生の男の子は「今日のホルンはかっこよかった」とにっこり。誘われて初めてきた友達は「こんな便利な場所にすてきなホールがあるなんて知りませんでした」と話してくれました。

木のぬくもりを感じるホール
さまざまな演奏を届けてきた「ウェルカムキッズ」シリーズですが、これまで開催した中で人気だった企画をお聞きすると、小杉さんは「スティールドラムのときや、創作楽器によるアンサンブルの『ルロット・オーケストラ』のときには会場が盛り上がり、楽器を近くで見たいと子どもたちがなかなかホールを去らなかったほどです。一度来ていただくとリピーターになって毎回来訪してくださる方が多いので、そうした方たちに楽しんでいただける内容を考えています」と答えてくれました。

終演後のホワイエでは、壁に描かれた楽器を見ながら会話する親子の姿も。これは平林薫さんが音楽をテーマに製作したアート作品です
もうひとつ、ファミリー層に向けてのユニークな活動が、10年前から続く「ひまわりファミリー合唱団」です。年度末に開催する「ひまわりファミリーミュージカル」への出演を目指して、小・中学生15名、高校生以上15名のメンバーを、毎年秋に募集しています。横浜シティオペラの所属メンバーが講師をつとめ、半年間、合唱練習を積み、プロのオペラ歌手と共に舞台を作り上げていきます。これまでに上演した演目は「西遊記」「白雪姫と仲間たち」など。小学生から大人までが一緒に練習し、衣装作りなども協力して、晴れのステージに立ってきました。(2020年度は中止)

*2019年3月に上演された、ひまわりファミリーミュージカル「西遊記」の様子
この日、音楽ルームで行われていた「器楽ワークショップ~三味線初級クラス」も覗かせていただくと、三味線を手にしてまだ3回目という5人の受講生が「文化譜」という楽譜を読みながら撥で大きな音を出していました。
「器楽ワークショップ」はひまわりの郷の自主事業の中でも長く続いて人気があり、現在はフルート、ギター、三味線クラスが設けられています。初級クラスの受講後も楽器を続ける人が多く、フルートと三味線には中級クラスができました。毎年募集をするとすぐに定員に達するそう。ギターのクラスではおじいさん、お母さん、孫の三世代で受講した例もあるのだとか。
受講生たちと講師による合同発表会も毎年行われていて、ホールでの晴れ舞台も受講の励みになっているようです。

講師の澤田成珠さん、澤田成音さんの声かけに合わせて音を出す受講生
最後にこれからの活動について沼部さんにお聞きすると、「駅のすぐ上にあるにもかかわらず、ここまで上がって来ていただける方はまだまだ少ないと思っています。シルバー世代と子育て世代の両方が交流するような企画を提供して、より多くの人の芸術活動の場にしたいですね。昨年開催できなかった『ひまわりサマーフェスタ』を8月に開きますので、そういう場面がたくさん見られると嬉しいです」と話してくれました。
世代を超えて活動する場として港南区民の生活スタイルの中に組み込まれている様子とともに、さらなる交流を図りたいと取り組む姿を知ることができました。
●Information
横浜市港南区民文化センター ひまわりの郷
➤アクセス 京急線・横浜市営地下鉄ブルーライン 上大岡駅
➤WEBサイト https://himawari-sato.com/
●Event
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